「低走行車=そのまま乗れる」と思うのはありがちな勘違い!
機械的な磨耗は少ないが、ゴムや樹脂部分の劣化に注意
走行距離が少なくてこれは極上だと言われたクルマを買ったら、納車直後からトラブル続きで腹が立った。そんな話を聞くことがある。「まだ2万㎞しか走っていない」なんて聞くと、ほとんど新車のような気がしてしまうけれど、10年、15年という時間が経過していればメンテナンスが必要なのは当然のこと。
同型の低走行車に乗り替える時には、チェックすべきポイントがある。保管状態によるところも大きいが、点火系などの電気系パーツは走行距離よりも年数で劣化が進む傾向が強い部分。例えばコネクターや配線のアース部分などの接点、コードの被服やプラグコードなどだ。とくにプラグコードは、バッテリーが何度も上がってしまい、あちこち手を入れても直らないような場合に、意外にもプラグコードから電気がリークしていたというケースが少なくなく、盲点とも言える部分だ。走行距離に関係なく、10年を目安に交換しておきたい。
メルセデスの場合はディスビキャップにゴム製のパッキンが取り付けられているクルマが多く、ここも劣化すると湿気が内部に入り込んで始動不良などの原因になるので、無条件で交換しておきたい。パッキンだけなら数百円の部品だ。
電気系の要と言えるバッテリーも、あまり走らせていないクルマの場合は電極プレートの劣化が進んでいる可能性が高い。アクセルを吹かすとヘッドライトの明るさが変わる様な症状があったら、即交換しておこう。
この他、リレーやイグナイターなどのユニットにも注意が必要だ。例えば、OVPリレーや燃料ポンプリレーなど、交換されていれば対策品となっている部分も、走行が少ないことでまだトラブルが出ずに未対策のままということがある。イグナイターの裏に塗られる放熱用のシリコンペーストなども塗り替えられずにカチカチに硬化し、十分な放熱効果を発揮できていなかったりする。知らずに放置してイグナイターが焼けてしまうと、安くても15万円の出費。ちゃんと管理しておけばそんなに壊れる部分ではないので、購入したら一度裏側の状態をチェックしておくと安心だろう。
エンジンでは、カムやベアリングなど、機械的な摩擦が発生する部分にとっては圧倒的に有利な低走行車。走行距離が多いクルマと比較すると、摩耗は確実に少ない。つまりは金属部分は絶好調と言っていいだろうが、問題はゴム系の部分ということになる。
まず、エンジンやミッションなどのマウントだ。回っていようとなかろうと、重たいエンジンを支えているマウントは確実に潰れてくる。とくに液体封入タイプのエンジンマウントは、5年も経てばエンジンの搭載位置が目に見えて下がるほどだ。これは乗り出し前に交換しておくことで、ラジエターなどの無用なトラブルを避けることもできる。
次に問題となるのがオイルのシール類。ヘッドカバーパッキンやフロントカバーシールといった定番のオイル漏れポイントは、通常であれば4〜5万㎞程度で手が入れられているはずだが、距離を走っていないクルマの場合はそのままというケースが多い。現状で漏れていなければとりあえずはいいのだが、あまり古くなって固着してしまうといざ交換する時にカスが外れなくなってしまい、新しいパッキンの馴染みが悪くなってしまうことも。
さらに注意したいのがATのフロントシール、デフシールなど回転するシャフト部分に備わるシール類で、これらは動かしていないと変形してオイル漏れを引き起こしやすい。この他のゴム部品では、ラジエターや燃料などのホース類、ゴム製の緩衝機構を持つプーリーなどに亀裂や硬化がないか、乗り出す前に十分な点検をしておくことをお奨めする。
エアコンのトラブルにも注意したい
また、あまり使っていないとトラブルを起こすのがエアコン。最も多いのが冷媒系統を循環しているコンプレッサーオイルが、長時間使用しなかったことで固まってしまったり、ドライレシーバー内部の活性炭が流れ出してガスの噴射バルブを詰まらせるというもの。バルブの交換だけなら車種によっては比較的簡単にできるものの、根本的に不純物を取り除かないとまた詰まってしまうことになりかねない厄介な問題だ。
プーリーなどの回転を支えているベアリング類も、動かさない状態で一定の部分にベルトの張力による力を受け続けていると異音が出るなどのトラブルを起こしやすい。80年代後半以降のモデルではオートテンショナーを使っているためあまりトラブルは出ないが、ベルトの張力をメカニックが調整していた時代のクルマでは注意しておきたい。
このように機関部分に関しては絶好調だと思われがちな低走行車であっても、エンジンに関係してチェック&メンテナンスをしておいた方が安心な部分が多数存在するのだ。
この他にもブレーキや足回りも距離ではなく、年数でチェックすべき部分があるが、大事なのは走行距離が少ないクルマであっても10年、15年という時間が経過したクルマを買う以上、メカニズムの状態に対して注意を払って、必要な消耗品の交換はしてやるという心構えを持って乗ることなのだ。当然、トラブルが出ることもあるだろう。そんな時も、極上車なのに壊れたと腹を立てるのではなく、程度の良いクルマだからこれだけの修理で済んだと思ったほうが、カーライフはより良いものになる。
足回り系
ブレーキ系
エンジン系
電気・点火系
極上車をベースに完璧を追求するのも趣味のひとつ
一般的な中古車の市場価格と比較してどんなに割高だったとしても、新車価格を考えれば信じられないような格安で手に入れられる極上車。最初のオーナーとほぼ同じような気分で、キズ一つないインテリアを楽しめるだけでも限りなくお得ではないか。しかも今ならば希少価値も付いてくる。
もちろん、極上のコンディションでトラブル知らずで乗りたいという人もいるだろう。信頼性あってのクルマだという人は、過剰なメンテナンスをしてでも、高い信頼性を手に入れることに価値を感じるかもしれない。それも一つの乗り方だ。絶えずクルマの発する情報に耳を傾けながら、コンディションを気にしながら乗るのも、古いクルマとの付き合い方として、趣味として考えれば、これもまた楽しい。
低年式極上車のチェックポイント
●デスビシールリング
●プラグコード
●燃料ホース
●燃料ポンプ
●機械式接点スイッチ類
●ラジエターキャップ
●ウォーターポンプ
●オルタネータ
●アイドラプーリー
●足回りブッシュ類
●ショックアブソーバ
●デフシール
●ATリアシール
●エンジンヘッドパッキン
●ハブベアリング
●ブレーキホース
●ブレーキキャリパー
●マフラー
●タイヤ
●バッテリー