もう二度と出会えない
奇跡の走行1.3万km
Mercedes-Benz 300TE
(S124)1989y
4MATIC&ベロアシートという
希少な300TE
コストダウンを実施したW210型のEクラスに対し、その前身たるW124型は、「最善か、無か」という当時のメルセデスが掲げていた企業スローガンに沿った、最後のEクラスと言われるようになった。そのような事実があったため、登場から30年以上が経過した今でも、W124は名車として語り継がれている。
しかし、名車と呼ぶに相応しい内容の整備を受けてこなかったW124は、本来の魅力を発揮できていない個体も多い。そのため、W124が持つ本来の乗り味を知らぬまま、もしくは一部の魅力しか知らないままに、乗り替えてしまったというオーナーも少なくない。事実、程度が悪いW124に乗っても感動することはほとんどない。いやむしろ、これならW124じゃなくてもよいのではないかと思うことがあるほどだ。W124は確かに名車であるが、それは程度の良い個体か、良い状態に仕上げて乗ることが前提なのだ。
今回撮影したのは、PEACEの販売車両である1989年式のメルセデス・ベンツ300TE 4マチック。いわゆる前期型のS124で、走行距離は奇跡ともいえる1.3万㎞だ。30年以上も前のW124の走行距離が1.3万㎞。同じような中古車と出会える確率は無いに等しいと思うが、それに加えてこの個体は希少な4マチックというグレードなのだ。
少ない走行距離と希少なグレードという事実だけで、奇跡の個体と呼ぶに相応しいS124なのだが、さらに驚くべきは整備内容。ディーラーやスペシャルショップにて、低走行車であっても劣化するであろう部分のパーツは徹底的に交換されている。外装はオリジナルの塗装が保たれたダイヤモンドブルーで、未塗装の前後バンパーとサイドモールも含めて、非常に良い状態にある。内装のベアロ素材のシートやゼブラノウッドの状態も、極上と呼ぶに相応しい内容なのだ。
さて、この奇跡のS124を撮影するため、約15㎞の試乗を兼ねたドライブが許された。この走行により1.2万㎞台で収まっていたオドメーターは1.3万㎞台に突入してしまったが、このクルマが持つ魅力に影響はないことを明記しておきたい。
話を奇跡のS124の試乗に戻す。1989年式の300TE、つまりシングルカムの直6を積むこれは、ボッシュのKEジェトロが燃料をマネージメントしている。後期型の完全ECU制御のそれとは異なり、ほぼ機械式のインジェクションとも呼べるKEジェトロゆえ、燃料や点火の制御はワイヤーやロッド類が多数使用されている。それらの動きが悪くなると、アイドリングの微妙な乱れ、加速中に原因不明の息付きの発生、全体的に振動が大きいなど、実用上の問題は無くても、高級感が損なわれる症状に陥ることが多い。むしろ、それくらいの症状ならばあって普通ともいえるのが前期型のW124の今でもあるのだが、そのような症状が全く出ていないのがこのS124なのである。
それゆえ、イグニッションキーを捻ってエンジンを始動させた瞬間から、このクルマの程度の良さを感じることができる。アイドルアップが正確に作動し、1000回転を少し超えたところでしばしキープされると、やがて800回転前後のアイドリングへと落ち着く。しかも、乱れることなくだ。機械式の4速ATをPからDにゆっくり操作すると、メカニカルなショックを明確に伴いながら素早くシフトする。重めのアクセルペダルと大きいステアリングを操作し、いざ走り出せばこの上ないスムーズさ。
路面状況を的確に伝えながら、振動やショックを直接伝えることがないのは、良好な状態がキープされているボールナット式のステアリング機構のおかげ。両手に伝わるわずかなインフォメーションから、足回りの状態が非常に良いと想像することは容易く、このステアリングフィールだからこそ、疲労度の少ないドライブが可能になる。
同時に、ボールベアリングの劣化などからくるゴロゴロ感なども皆無だ。それどころか、電動のパワーステアリングが一般的になった今、この贅沢なステアリング機構を非常に良い状態で操作できること自体に感動を覚える。
そして、4速ATの変速もまた絶品だ。ダメな電子制御ATにありがちな“半クラ”が長いような変速ではなく、スパッスパッと各レンジに素早くシフトする。素早く変速するからこそ、それ相応のショックを伴うが、それで正解なのだ。MTを上手に変速するような感覚が味わえるのが、機械式ATの良いところ。この素晴らしいATがあるからこそ、3ℓの直6はタイムラグを感じることなく、自然な感覚で加速する。4マチックゆえに駆動系のパーツが多いのだが、メカニカルな音はFRと変わらずで、現代のクルマと比較しても静かに感じられる。
この4マチック、フルタイム4WDではあるが、その構造はパートタイム式に近くトランスファーを備えるタイプだ。それゆえ車重はFRよりも110㎏も重くなっているが、乗り心地には良い方向に働いているようで、しなやかな走りを堪能できるのだ。新車のそれは、国産車もよりも硬さを感じるものであったと記憶しているが、この個体にはそれがない。ダンパーは前後ともキッチリと機能しており、4マチックであることの安定性と車重が、しなやかな乗り心地に繋がっている。それに加え、当時から大きく進化した、ブリヂストンのREGNOが装着されていることも利いている模様。ちなみに、この個体は筆者がこれまでに乗ったどのW124よりも静かだったが、その面でもREGNOは貢献していたと思う。
今回はそれを差し引いたとしても、しなやかで静か、そしてスムーズな乗り味であることは確か。大袈裟な表現では決してなく、最新のSクラスと比較しても負けずとも劣らずという乗り心地。また、この乗り味の印象を良くしているのは、しなやかさだけではない。室内が低走行車ならではの良好な状態が保たれているところも大きい。
恐らく、このクルマを運転して一番驚くのは、W124に乗っている現オーナーたちだと思う。それほどこのS124のコンディションは極上なのだ。新車に近い状態を保ちながら、W124が持つ本来の魅力を五感に訴えてくる。そんな非常に贅沢な個体なのである。
新車時のフィールが楽しめる
極上のコンディションをキープ
【SHOP DATA】PEACE(ピース)
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