タイヤの交換時期は
残りミゾだけで判断しないこと
クルマにとって、タイヤは非常に大切なパーツである。凝りに凝った現代のサスペンション技術も、基本はいかにタイヤを有効に使うかということであり、タイヤもまた、優れたものでなければ、高性能なサスペンションの能力を発揮することはできない。それゆえ、現代においてはタイヤの技術や性能が大きく進化し、走行性能、燃費、安全性など、最新の電子デバイスを有効に活用するための性能が備わっていると言える。
では、メンテナンス面から見ていくと、スリップサインが出たら交換するというのが多くの人の認識だろう。だが、もう一歩突き詰めていくと、残りミゾが十分にある場合にも、交換が必要になることはある。
最も多いのが、長期使用でゴムが硬化した場合だ。ドライグリップ力の低下はもちろん、ウェット時には危険なほど滑りやすくなる。この硬化具合を判断するには、サイドウォールやトレッド面にヒビ割れが生じていないかを確認すること。5年も使用すると、多くのタイヤがヒビ割れを発見できる場合が多いが、実は、もっと長く使い続けることができる場合もある。シリカを適正な量で含んだタイヤで、ローテーションも定期的に行なっている場合に限った話ではあるが、その長持ちさせるための秘訣を紹介していこう。
まず、2週間に一度の空気圧チェックを行なうこと。常に適正な空気圧であることが、長持ちさせるための最大のコツとなる。
次に直射日光は極力避けること。日光に含まれる紫外線がタイヤの硬化を促進させる傾向にある。この紫外線と同様に、オゾンを発生させるものはタイヤの劣化を促進させる。ちなみにオゾンとは酸素原子の一つで、非常に強い酸化力を持つ。それがタイヤのゴムに悪影響を与えるのだ。ちなみに、脱臭や除菌には高い威力を発揮するため、オゾン脱臭やオゾン除菌は有名な言葉。このオゾン、水銀灯やコピー機などからも多く発生するので、これらの近くでタイヤを保管することは、やめた方がよい。
また、使わないタイヤは劣化スピードが速い。タイヤには、活性剤が含まれており、摩耗と同時にこの活性剤がシミ出てくる構造になっている。乗用車用のタイヤのほとんどが、同様の構造となっており、タイヤを使わなければ活性剤が出てくることはない。従って、頻繁に乗らないとタイヤはヒビ割れを起こしやすくなる。
そしてもうひとつ、タイヤをピカピカにしたいからといって、ワックスを過剰に塗布することもタイヤのヒビ割れを促進させてしまうので注意したい。
適正な空気圧を保つことが
タイヤを長持ちさせるポイントになる
タイヤにとって最も重要なメンテナンスとは、常に適正な空気圧に保つことである。その点検は2週間ごとに行なうことが理想であり、そこまでタイヤに気を使っている人であれば、今履いているタイヤを長く使い続けることができるはずだ。
適正な空気圧の数値は、ドイツ車の場合、給油口の裏蓋に示されていることが一般的。乗車定員や積載量によって空気圧の指定数値が変わるなど、国産車よりも詳しい内容となっている。本来は車重が変化したら、適正な空気圧に調整しなければならないのだ。
空気圧でタイヤがどのように変化するのか。まずは空気圧が不足気味の場合は、トレッド面の両サイドが減りやすくなり、偏摩耗の原因となる。高速走行ではスタンディングウェーブ現象(タイヤの接地面より後方が波状に変形すること)を引き起こしやすくなり、バーストする可能が高まる。また、転がり抵抗も増すため、燃費が悪化してしまう。
逆に、空気圧が高過ぎる場合はトレッド面のセンター部分が摩耗しやすくなる。また、高速走行では内圧がさらに高くなるため、バーストする可能性が高くなる。と同時に、本来のグリップ力は発揮しにくくなる。タイヤの空気圧は、高過ぎても低過ぎてもよくない。あくまでも適正な数値に合わせることが、安全面でもタイヤを長持ちさせる面でも、重要と言えるのだ。
ではここからは、今すぐ実践できるタイヤ空気圧の正しい調整方法を紹介しよう。まず街乗りがメインの場合は、タイヤが冷えている状態で調整しなければならない。規定数値よりも若干多めにエアを入れ、次に空気を抜きながら規定量に合わせていく。このやり方が、最も簡単かつ均一にしやすい。
サーキット走行やスポーツ走行を行なう場合は、タイヤの温度に関係なく、常に適正な数値に合わせながら走ることが重要だ。高速走行によって、タイヤの内圧はすぐに高くなり過ぎてしまう。つまり、普段の空気圧では高過ぎてしまうことが多いので、エアを抜く機会が増えることになる。その時その時の状況に応じて空気圧の調整を行なうことが大切なのである。
また、どんなに高級なクルマであっても、パンクだけはいつ起きても不思議ではない。何かを踏んでエアが漏れてしまうということは、どんなクルマにも起こる可能性があるからだ。だからドライバーはパンクをした時の緊急事態に備え、正しい対処方法を知っておくことが重要。クルマによってその対処法は異なるので、一度、じっくりと取り扱い説明書を見ておくといい。
ここでは、パンク時の基本的な対処を説明する。まず、トランクなどにスペアタイヤがあるクルマは、これと交換する。もちろんスペアタイヤも常日頃から空気圧の調整を行なうことが必要である。
そのスペアタイヤが、緊急時用の幅の狭いテンパータイプの場合は、これを駆動輪に履かせることはできない。つまり、FR車で後輪がパンクした場合は、パンクしていない前輪を後ろに履かせてから、テンパーを前に装着する。これが正しい対処方法なのだが、近所にガソリンスタンンドやカーショップがあるなら、かまわずテンパーを駆動輪に装着し、そこで改めて正しくセットし直してもらった方が安全と言える。
次に、スペアタイヤが搭載されておらず、代わりにパンク修理剤だけが備わっている場合。この場合は、そのパンク修理剤を注入するだけで良いのだが、これもあくまで一時的な対処法。できるだけ早くに、タイヤのプロに見てもらうことが必要で、長距離の走行はできない。
ちなみに、パンク修理剤は簡単かつ短時間で走行できるようにしてくれるので、どんなクルマにも1本携帯しておくと安心だ。しかし、万能ではないことも知っておきたい。完全にエア抜けが収まらない場合もあるし、この修理剤を入れたことで、タイヤの修理ができなくなる場合もある。
それでも、緊急時の脱出用としては有効なアイテムなことは確か。ジャッキアップもタイヤの脱着も必要ないので、女性でも簡単にパンクの修理ができる。場所も取らないので、トランクに入れておいて損のないものだと思う。
ランフラットタイヤにも注目
BMWを中心に、近年その装着率が高まっているのがランフラットタイヤだ。パンクをしても、ある程度の距離(100㎞くらいまで)ならそのまま走行することができるもので、タイヤのサイドウォールにRSCという刻印があれば、それはランフラットタイヤの証。
タイヤの空気圧が完全に抜けても走行できる秘密は、タイヤの内部に補強材が入っているため。エアが抜けて潰れてしまうタイヤを、この補強材が支えてくれる仕組みだ。
パンク時にこそ、その真価を発揮するのがランフラットタイヤだが、ネガティブな要素もある。まず、一般的なラジアルと比較して重く、ロードノイズも大きめ。また、パンクした場合に修理が利かないことや、ランフラット専用のホイールにしか装着できないものもある。
とはいえ、パンクといった緊急事態を安全に乗り切るための技術が生かされているのは確か。長距離移動が多いのであれば、ランフラットタイヤなら安心感が高まるはずだ。