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VW up!に乗って想うVolkswagenの底力

 高速道路でアクセルを踏むのが快感♥という人にとって、up!は興味の対象外かもしれない。でも世の中の価値観は大きく変わった。古いSクラスを愛好するのは素敵なことだけど、趣味のクルマは趣味として、ドライブやツーリングを楽しんでこそ価値がある、そんな時期を迎えているように思う。だからこそ、1人で移動するなら足として使えて、楽しめるクルマがいい。VW up!はそんなニーズにも応えてくれる。

趣味車との2台体制としても魅力的なコンパクトカー

 近年の「ダウンサイジング」というトレンドは、クルマにおける新しい価値観をすっかり作り上げてしまった。アメリカ譲りの「大きいことは、いいことだぁ」を信じて来た日本人にとっては、180度の大転換である。乗り換える度にクラスアップして、いつかはクラウンなんて言っていたのは昔話。コンパクトカーに乗ってみれば、これが生活ツールとして実は非常に具合がいいことに、みんなが気付いた。もちろん、そこにはクルマが良くなったという前提あってのこと。昭和末期のパルサーじゃぁ、サルーンから乗り換えようという人はいなかった。
 そんな理由で、日本の道路は軽自動車と国産コンパクトカーにほぼ占拠されている。良い商品は消費者の価値観まで変えてしまうという実例だといえる。
 さて、ここで紹介するVW up!を一目見て、まず心奪われるのはそのデザインだろう。全長3・5m強、全幅1・65mの4人乗りとしてミニマムなサイズながら、いたずらにキュートでも、リメイク系でもない。モダンかつ高品質なイメージの、極めて正統派なスタイリングを持っている。とくに後ろ姿はテールゲート全体をリアウインドーと一体化したガラスで覆い、個性的な存在感をアピール。記憶に残る形だ。
 さっそく走ってみよう。日本仕様に搭載されるのは、このモデル用に新開発したという5速のASGトランスミッション。通常のMT車に使用される乾式単板クラッチを、電気仕掛けで動かしてやろうというもの。目新しくはないが、軽量コンパクトなので900(2ドア)/920(4ドア)kgという車体の軽さにも一役買っていることは間違いない。さすがにツインクラッチのDSGとは異なり、変速時にはちょうど自分でギアチェンジをするくらいの大きなタイムラグがあるが、自動変速モードではなく任意にギアを変えて走るとそれなりに楽しい。そしてギアを引っ張って走ると、このエンジンがなかなか良く回る。もちろんパワーが付いてくる感覚には乏しいのだけれど、タコメーターを見ると思わぬ回転数まで上がっていて驚くほど。3気筒とは言っても、アイドリングで振動を感じることもなかった。
 そして何より光るのがサスペンションの良さだ。剛性の高いボディとしなやかに付いてくる足回りは、紛れもないヨーロッパ車の味わい。車重を考えれば驚くほど落ち着いた乗り味で、これには目一杯長く取ったホイールベースも貢献しているのだろう。安定しているのに舵を切った時の反応は軽いクルマらしい俊敏な動きで、運転するのがなかなか楽しい。日本車とはコストをかける場所が明らかに違っている。
 フォルクスワーゲンというブランド、そして非常にリースナブルな価格も加味して考えると、とくに輸入車びいきでない人にとっても、なるほど魅力的である。国産メーカーが恐れるだけの実力と味わいを、十分に持っていると言えるだろう。
 フォルクスワーゲンの中で、もっとも小さななクルマであるup!。軽快に走り回れるコンパクトカーとして注目の存在である。

バンパーを大きく縁取ったアクセントラインと大型のVWエンブレムが印象的なフロントデザインに対して、リアは特徴的なコンビランプを中心にモダンなイメージでまとめられている。ゲートは金属パネルの外側にガラス張りの構造。新車時の価格はなんと149万円から。新車当時はその安さに驚いたものだ。
999ccの3気筒エンジンは自然な出力特性のNA16バルブ。バランサーシャフトなしに振動の少ないなめらかな回転を実現している。シンプルさと高効率が魅力。
乾式単板クラッチを電子制御する5速ASGは、わずか30㎏という軽量化を実現。自動変速とティップシフトが選べる。
エアコンやカーステレオなどの操作パネルを高い位置にセット。操作性が良く飽きの来ないデザインを採用しているところがフォルクスワーゲンらしい。
フロントシートはシートバックがヘッドレストと一体の構造。リアシートは座面が一段高くなっているため、居住性だけでなく視界も良好で気持ちがいい。乗車定員は4名。