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1シリーズ

2021.03.09

1シリーズに乗って想うBMWの底力

 BMWはいつの時代も走る楽しさを追求するメーカーである。当然コンパクトカーにおいてもその哲学は貫かれており、50:50の前後重量配分や革新的なエンジンとシャシーは、エントリーモデルである1シリーズにおいても妥協なき作り込みがなされている。近年においては長くFR(後輪駆動)にこだわってきたBMWが、2シリーズや1シリーズにFF(前輪駆動)を採用。BMWも新たな時代へと突き進んでいる。

決して破綻することがないハイレベルなシャシー性能を持つ

 BMWはすべてにおいて理想を求め、そして妥協しない。シャシーにおいては、FRレイアウトがもたらすハンドリングでしょ? と思われるかもしれないが、それは理想とされるスタイルを追い求めた結果そうなっただけなのかもしれない。
 たとえば、FRはフロントタイヤに駆動力がかからないことから、サスペンションのジオメトリによってフィーリングが決定されるため、ハンドリングを追求するために有利なレイアウトであることはいうまでもない(もちろんそれ以外にもメリットはあるが)。それは、ずばり素直なハンドリング性能にある。それは意のままに操れることを意味し、違和感を覚えさせることなく操縦できることを指す。
 もちろん、それを実現するに有利な形式を採用するだけではなく、そこにこだわりを見せることで、BMWたるハンドリングを手に入れている。たとえば、BMWでは、フロントのコーナリングフォースを確保するために、ストラットサスペンションにキャスター角を大きく確保しながら、トレール量を少なくすることができるフォアラウフを採用し、また、操舵時のトゥ変化を少なくすることを目的としてロアアームを2分割としたダブルピポットアームを採用するなど、ハンドリングと安定性をハイバランスさせる形式を採っていた。もちろん、バネ下重量の軽減は基本中の基本。アームからピポットベアリングに至るまで全てアルミ製とし、さらにはサブフレームまでアルミを採用し、BMWらしい乗り味を作り上げていた。
 ところが、FRであることのみで語ることができなくなってきたのが、昨今のBMWだ。ローバーからMINIブランドを手にしたBMWは、FFの仕立て方を学び(と言ったら怒られてしまいそうだが)、そして、2シリーズアクティブツアラー/グランツアラーではBMWとしてとうとうFFを採用。その勢いはX1にまで飛び火し、コンパクトサルーンのコンセプトモデルはもちろん、さらには1シリーズにまで採用されている。
 それでいいのか? BMW、と思わずつぶやいてしまいたくなるのだが、試乗してみるとFRらしさに届いていないことを感じるものの、それよりもサスペンションチューニングの懐の深さ、つまりポテンシャルの高さから、FFでもいいんじゃないか、とすら思えてくる。このシャシーは、2シリーズアクティブツアラー/グランツアラー、MINIクラブマン、X1で共用されているが、そのチューニングを変えることで、あちらではMINIらしさを表現し、こちらではSUVテイストを手に入れるなど、そんなBMWの巧みなチューニングにも驚きがある。
 過去にMスポーツがパッケージとして提供されていた頃、その設定は、あまりにスタイリング優先、スポーティさ優先であり、快適性を失い過ぎている感が強く、すべてのオーナーが満足するとは思えないところがあった。しかし、最新のMスポーツは違う。快適性を失うことなく、スポーティさを極めるという絶妙のチューニングが施されており、誰が選んでも不満を感じさせない、そんな仕上がりとなっている。
 また、ダンパーの減衰力調整も行なうドライビング・パフォーマンス・コントロールからもそれを感じる。かつては、1インチタイヤサイズを変えただけで乗り味を大きく損ねることがあったが、快適性をキープしている。それどころかBMWが求める乗り味の理想まで実現しており、モデルによっては未装着車の乗り味に物足りなさを感じるほどだ。
 というように、最新のBMWのシャシーはレイアウトや形式だけに捕われることなくBMWらしさを表現しており、また、たとえスポーティに仕立てていようとも、そこに不足が見当たらない。それはFreude am Fahrenという基本スタンスを崩すことなく、自らの理想を追い求めているからにほかならない。
 先に、かつてのMスポーツパッケージの例を挙げたが、それは日常域での話であり、BMWが狙ったスポーツ性能に対しては不足を覚えたことはない。そういえば、取材で初代X5のスポーツパッケージ装着車(Mではなかった)なのに林道でのシーンを撮影することになり、砂利道に足を踏み入れたことがあった。しかし、タイヤは路面をしっかりと捉えて離すことがなく、ポテンシャルの高いシャシーは、多少シーンが変わろうとも破綻しないことを知った。
 また現代の7シリーズの乗り味はもはや制御によって作り上げられているが、そこに違和感を覚えることはなかった。的確に抑えられるロール、安心感があふれだす制動力、そして、Mスポーツであろうとも快適と表現できる乗り心地など、まさにBMWが求めてきた理想の全てが表現されており、そこにさらに進化したBMWらしさを感じた。
 路面トレース性の高さは、下手にオフローダーを謳うモデルよりもよっぽど優れていたことを今でもしっかり覚えている。そう、BMWのシャシーポテンシャルは想像している以上にハイレベルなのだ。

エンジンは新開発となる直噴1.5ℓの3気筒DOHCにターボチャージャーを搭載。非常に細かく制御されている。
ブレーキはフロント、リアともにベンチレーテッドディスク。足回りはフロントがストラット、リアが5リンク式となっている。ちなみに取材車はFR駆動となる先代モデルで、鋭いハンドリングを楽しめるのが魅力。
BMWらしいシンプルさの中に、スポーツテイスト散りばめたインテリア。ワイドディスプレイのほか、ナビなどの操作を手元で行なえる機能も搭載。ATは8速タイプで緻密かつスムーズな変速を実現する。
程よい固さでドライバーをしっかりとサポートしてくれるフロントシート。後席もこのクラスにしては十分なスペースを確保している。
普段の買い物など普段使いで困ることはないスペースを確保したラゲッジルーム。リアシートを倒せば、長尺物も収納できる。
Profile / 2019 BMW118i

 コンパクトなプレミアム5ドアハッチバックである1シリーズ。3シリーズではボディが大き過ぎるという人にとっては、軽量なボディと軽快に回るエンジンによるキビキビとした走りは魅力的。スポーツ、スタイル、Mスポーツという3つのデザインラインを用意し、それぞれに個性溢れるエクステリアとなっている。このクラスとしては唯一となる後輪駆動(FR)を採用していることも特徴。エンジンは直3ターボ、直4ターボ、直6ターボの3種類で、全車に8速ATが組み合わせられる。現行モデルでは前輪駆動(FF)となり、頑なまでにこだわってきた血筋が途絶えてしまったが、それでもBMWらしい懐の深い走りは健在。またFFになったことで居住空間や積載性は先代モデルよりも大幅に向上している。

 

Specifications          118i

全長×全幅×全高(mm)     4340×1765×1440

ホイールベース(mm)       2690

車両重量(kg)            1430

エンジン方式          直3DOHC+ターボ

総排気量(cc)           1498

最高出力(ps/rpm)       136/4400

最大トルク(kg-m/rpm)    22.4/1250〜4300

変速機             電子制御8速AT

最小回転半径(m)          5.1

使用燃料・タンク容量(ℓ)   無鉛プレミアム/52

JC08モード燃費燃費(km/ℓ)     18.1

タイヤサイズ          205/55R16

新車価格(万円)            320