日本における高級車の代名詞だったゴーロクマル
今から考えれば異常とも言えるバブル時代に、街中を走る高級車の王者として君臨していたW126。そしてメルセデスにおけるバブルの象徴とも言えるのが「ゴーロクマル」の愛称で呼ばれた560SELである。バブル期に成功を収めた人たちがその証として、1000万円を超えるこのクルマをこぞって買い求めた。中には新車の納車が待ちきれず並行輸入したり、中古車を買いあさっていたのだから、当時この560SELがどれだけ特別なクルマであったかがよく分かる。
例えば装備類を見ると、後席に背もたれと座面を調整できる電動スイッチやエアコン調整機構、さらにはフットレストまで装着される。
欧州ではレザーシートよりも高級品とされるベロアシートが用意されているのも魅力の一つで、触れるたびに感じるベロア生地の温かみや、スプリングが利いたソファのようなシートが絶品の座り心地を実現。さらに標準ボディよりも140㎜延長されることによって生まれた広々とした後席が快適な移動空間を約束してくれるのだ。
ただし「お客様に満足していただける装備を充実させました!」という単純なものではないのが、この時代のSクラス。細部を見ていけば往年のメルセデスの哲学が盛り込まれている。
シンプルなデザインの中で追求した実用性、高級車として必須の静粛性を高める工夫など、見れば見るほど納得の作りになっているのだ。
560SELは標準ボディよりも全長が140㎜延長されている。これにより生まれた広々とした後席が快適な移動空間を約束してくれる。味わい深い走りもファンを魅了し続けている。
M117型のV8SOHCユニットを搭載。日本仕様では最高出力が285psとなる560SELだが、取材車は新車並行であるためフルパワーの300psを発揮。怒涛の加速力を味わえるパワーユニットに仕上がっている。リアに油圧レベライザーが搭載されているため、エンジンルームにはオイルタンクが備わる。
往年のメルセデスらしい作り込みがなされたW126こと2代目Sクラスは、憧れのクルマとして名を挙げる人も多い。現在でも根強い人気を誇り、多くのファンを持つ名車。1979〜1991年まで生産され、85年から加わった560SELはあまりに有名だ。強靱なドアの建て付けなど、作りは古き良き時代のメルセデスそのもの。セダンのほか、クーペもラインナップ。
粘りのある走行フィールが優雅な気分を盛り上げる
ボディは樹脂製のバンパーや鋼板の厚みを効率的に調整することで軽量化、さらに空力を意識したデザインによって燃費の向上も実現している。メッキモールをウインドー回りやバンパーなどに配して、上品な印象を与えているのも特徴だ。
ボディの骨格はガッチリとしたもので、ひとたびアクセルを踏み込めばV8エンジンの響きとともに剛性感の高い走りを披露する。この何とも言えないフィールが堪らなく優雅な気分にさせるのだ。
そのキモとなるのが足回りのサスペンション。フロントにダブルウィッシュボーン、リアにセミトレーリングアームというレイアウトで、フロントのダブルウィッシュボーンはメルセデスが考案したアッパーリンク方式を採用している。
フィーリングにおいては、ロールしつつもグッと粘りながらコーナーを走り抜けていく感覚は懐の深さと味わいが感じられるものだ。
M117と呼ばれるパワーユニットは、メルセデスが長く熟成させてきたV8エンジンで、オールアルミ製のブロックを使用。一つ一つの部品を軽量化して官能性能を求めるのではなく、とにかく頑丈に作ることで耐久性と信頼性を重視している。
また、室内の静粛性を高めるための工夫など細部に至るまでのお金のかけ方はとても贅沢なもので、SRSエアバッグを市販車として初採用するなどの新技術も投入。見た目の高級感ではなく、作りの良さで勝負した本当の高級車の姿と言えるのがW126であり、その頂点に立つのが560SELなのである。
ちなみにメイン写真は欧州仕様で、日本仕様よりもパワーがある300ps。そんなところも趣味の醍醐味だ。
現代の感覚から見ればとてもシンプルなインテリア。安っぽい装飾は一切せず、素材と使いやすさを重視した、この時代のメルセデスを象徴する作り込みがなされている。トランスミッションは機械式の4速タイプを搭載し、ダイレクトなフィーリングを楽しむことができる。
撮影車は新車並行の欧州仕様なので、メーターには車両情報が表示されるディスプレイが備わる。こうした仕様の違いを楽しめるのもヤングクラシックの醍醐味である。
装備類のスイッチはセンターコンソールにまとめれている。ウッドパネルも上質なもの。560SELの後席にはフットレストが備わる。
スプリングが効いた座り心地は優雅な気分を感じさせてくれる。日本ではレザーシートが高級品とされているが、欧州ではベロアシートこそがエグゼクティブの証だ。
この時代のメルセデスが上品に見えるポイントになっているのがメッキモール。バンパーも含めて落ち着いた雰囲気を醸し出している。
テールランプに泥などが付着しても視認性を損なわないように、あえて凸凹のデザインとなっているテールランプ。こうした細かな部分は機能美といえる部分である。
遮音材を贅沢に使って、驚異的な静粛性を実現している2代目Sクラス。フロア下やエンジンルームなど、見えない部分にコストをかけているのがすごい。さらに車高を一定に保つ油圧レベライザーも装着するなどその内容は高級車に相応しいものだ。