校正、機能調整作業ってどんな整備なの?
高度な電子制御システムやセンサー、カメラを搭載している近年のドイツ車。これらにより緊急自動ブレーキ、踏み間違い防止装置、クルーズコントロール、レーンチェンジアシストなど、先進の安全装備や運転支援システムが当たり前のように装備されるようになった。もちろん、現在販売されているドイツ車にもこういった先進の安全装備は搭載されており、より安全で快適なクルマへと大きな進化を遂げている。
そういった背景から、車検の基準にも大きな変化が訪れようとしていることは、OBD車検のコーナーで解説した通り。その中で注目すべきキーワードは「エーミング」や「キャリブレーション」と呼ばれる機能調整作業である。
2024年(輸入車は25年)から、2021年(輸入車は22年)の新型車を対象に、OBD車検が導入される。さらに、先進の安全装備に対する機能調整作業が省略されているクルマは車検では不合格となってしまうため、この機能調整作業が必須となるのだ。ただ現在でも、この機能調整作業は車検の検査項目にはまだ加わっていないものの、先進の安全装備を搭載するクルマにおいては必須であることに変わりはない。決して未来の話ではなく、現在も行なわれている作業の一部であることを覚えておいてほしい。
ではそもそも、機能調整作業とはなにか。例えば、事故などでフロント回りを交換したとする。バンパーにレーダーやセンサーなどが装着されているクルマでは、これらの情報を元に安全装備が作動するから、部品を交換した際には機能調整作業が必要になるわけだ。そのほかにもカメラが装着されたフロントガラスの交換、フレーム修正などの作業においても、機能調整作業が必要になる。
サンプルとして選んだのは、カメラが装着されたフロントガラスを交換した車両で、フロントカメラの機能調整作業を実施してもらった。ちなみにオーテルでは機能調整作業をADASキャリブレーションと呼んでいる。ここでは簡単に作業のポイントについて解説していこう。
オーテルではADASキャリブレーションを実行するための専用診断機を用意する。アダプテーションで重要なのはセッティングであり、クルマとターゲットとの距離、高さ、角度などを最適に位置に調整する。ADASではレーザーを使ってクルマとターゲットを正しい位置にセットし、その手順は診断機から確認できるようになっている。
レーザーを用いてクルマを正しい位置にセットする
まずは、フレームと車両が水平になる位置にクルマを止め、最適な位置にフレームを設置する。この最適な位置とは、フレーム本体やリアホイールに装着したレーザーの照射を元にセッティングされる。ADASキャリブレーションのポイントになるターゲットは、メーカーごとにデザインが異なっており、オーテルではメルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンなどドイツ車に対応したターゲットを用意している。ADASでは、故障診断機であるマキシシスと連動してキャリブレーションを行なう。車両やフレームの設置、調整についても細かく手順が表示されるので、修理工場側にとっても簡単にセッティングができるはずだ。
最適な位置にターゲットを設置できたら、あとはマキシシスを使ってキャリブレーションを実行し、完了と出れば作業は終了だ。見ている限りではあっという間の作業だった。
また、オーテルADASでは、今回試したフロントカメラのADASキャリブレーションに特化したモデルもラインナップしている。これも基本的にはレーザーを使ってフレームやターゲットを最適な位置にセッティングして、ADASキャリブレーションを実行する。フロントカメラのキャリブレーションのみに対応しているので、クルマやセンサー位置の調整においては簡単に行なえる、という印象だった。
トラブルが複雑になり整備機器もハイテク化
現在、このような機能調整作業を行なえるのはディーラーか、マキシシスADASなどの整備ツールを完備している修理工場のみであり、一般の修理工場においてはまだまだ普及されていないというのが実情である。だが、部品メーカーや整備機器メーカーが集まる展示会を取材してみると、機能調整作業ができる整備ツールへの関心度は非常に高く、導入を検討する修理工場が増加中だ。
自動車の進化は整備環境も大きく変えていく。思えば、コンピュータ診断機が必須となった約30年前は、各スキャンツールメーカーが凌ぎを削っていた時代だった。そして、今ではメーカー専用品から汎用品まで豊富なラインナップを持つようになっている。我々ユーザー側にとっては、どんな設備を持つ修理工場かによって、恐らく車検費用等も変わってくるかもしれない。修理工場側としても、こうした先進のクルマに対応した設備を持つことが求められる時代になっているといえるだろう。
フロントカメラのADASキャリブレーションのみに特化した整備機器。オーテルではこうした機能を簡素化することで価格を抑えた製品もラインナップしている。今後の整備を考えれば、修理工場として揃えておきたい設備のひとつといえるだろう。