The history of ALPINA
ALPINA B9 3.5coupe(E24)
時代の変化に合わせて
進化を続けてきた
アルピナのチューニング
アルピナの歴史は、今では信じられないような幸運によってスタートする。父親の経営するタイプライターなどを製造する工場の片隅で、自分のクルマをイジる息子。そんなどこにでもある風景から、長い月日を経た現在、世界中にファンを持つ自動車メーカーが誕生したのだった。
BMW1500に組み付けられた2基のダブルチョーク式ウェーバー製キャブレターには、短いインテークマニホールドとスムーズに研磨されたエアファンネル、そして湿式のエアクリーナーが装着されていた。このキャブレターキットによって、たった1499㏄の80psエンジンは、0→100㎞/h加速13.1秒、最高速度160㎞/hという性能を発揮するまでに高められていた。これが近所の話題となり、ついにはBMWの重要人物の耳にまで届く。そして3年後には、彼がチューニングしたBMW車に対して、メーカー保障を与えようということになったのだ。翌年の初めには、チューナーとしてのアルピナ合資会社が設立された。まさにトントン拍子である。
どんなに実力があってもチャンスに恵まれない人が多い世の中にあって、まさに実力だけでなく運を味方につけたアルピナの創始者ボーフェンジーペン。その後のアルピナ社の歴史を見ても、そこで作り出されるクルマ達もまるで神懸かっている。レースを次々と圧巻し、10年を転機に公道を走るクルマの生産に専念すると発表、登場したB7ターボは300psのモンスターマシンであり、世界で最も速いサルーンとなった。やることがカッコ良すぎるじゃないか、アルピナ!
その後もスチール製キャタライザーキャリアを実用化したり、スイッチトロニックを開発したりと、自動車産業界にも小さなメーカーとは思えないような貢献を果たす。
そんな実力派のアルピナだからこそ、それぞれの時代にクルマがどうあるべきか、ユーザーは何を求めているのかをよく理解しているのだろう。E34ボディのB10ビ・ターボ以来、圧倒的なスーパーパフォーマンスを発揮するクルマからは遠ざかっている。
それゆえ近年では、上品でちょっと洒落た高級なBMW、というイメージが定着しているようだ。しかしそれはAMGのように経営的な都合で押し付けられたものではなく、自ら選んだ道。だからアルピナは、その気になればいつでも世の中がぶったまげるようなモンスターを作ることができるのも事実だろう。
E46やE39以降のアルピナは過激なメカニカルチューニングというよりは、落ち着いた大人のセダンといったフィーリングになり、さらにそれ以降になると過給器を使ってハイパフォーマンスを発揮するような方向へと変わっていく。
いずれにしても時代によって求められるニーズをしっかりと掴んで、アルピナの個性として高い完成度を誇っていることに変わりはない。