Profile of Porsche RUF CTR
トーションバースプリング独特の跳ねるような乗り味や、斜めに伸びるシフトレバーなど930シャシー特有の感触も含めて、すべてがCTRの個性として許せてしまうような魅力があるのだ。
CTRが現在も語り継がれる伝説となったきっかけがある。87年4月12日のことだ。米ロード&トラック誌が市販車最速を決める企画の中で、CTRが339㎞/hという最高記録を叩き出したのだ。フェラーリ288GTO、AMGメルセデスSEC6.0 4V、ランボルギーニ・カウンタック、ポルシェ956などそうそうたるスーパーカーがライバルにいながらのことだから、当時のインパクトは強烈だった。
CTRとは、カレラ・ターボ・ルーフの略。リアウイングを持ち上げて驚くのは、エンジンルームのスッキリした様だ。911ターボと言えば、エンジンの上に巨大なインタークーラーが覆い被さっているのがお約束だが、CTRはツインターボというだけでなく、インタークーラーもセパレート式となり、リアフェンダー左右の内側にそれぞれ組み込まれている。したがってターボウイングではなく、カレラウイングを備えているのも、CTRの特徴だ。
エンジンルームは完全に作り替えられ、空気の流れを見事にコントロール。これらはチーフエンジニアであるジョセフ・フーバーのアイデアだと言われている。
高出力でありながら低回転からブーストが立ち上がるパワーユニットは、2速でも4速でもまったく変わらないのではないかと思うほどの加速力。649psという数字を鵜呑みにしてはいけない。ルーフが公表する数値は最悪の条件下でも維持できるものであり、実際のCTRは510ps以上のパワーを誇るのだ。
排気系は当時ポルシェ962などのレーシングカーに使われていた、ニッケル系の超耐熱合金インコネルによって作られている。加工性が極端に悪い特殊な素材を使ったのは、この高性能を日常的に安定して使い続けることができるためである。
後期モデルではトランスミッションが5速から6速になり、さらに高速巡航性が高まり、最高速度は342㎞/hに達した。CTRの高速性能は、エンジンチューニングを限界まで追求した結果でhなく、軽量で小柄な911のボディと高トルクで柔軟性の高いパワーユニットを組み合わせたパッケージングの成功によるものだと言える。
今やクルマの最高速度競争は300㎞/h台を一気に飛び越え、500㎞/h台に突入している。それらは呆れるほどのパワーによるもの。それはそれで凄いとは思うが……。CTRについても、その後993ベースのCTR2、そしてミッドシップのCTR3が登場し、高性能化、豪華さは高まるばかりだ。
それでも初代CTの輝きは微塵も変わっていない。ドイツだけではなく、自動車史に残るスーパースポーツマシンとして、これからも伝説は語り継がれるだろう。
Specifications
全長…4150㎜
全幅…1690㎜
全高…1310㎜
ホイールベース…2272㎜
トレッド(前)…1395㎜
トレッド(後)…1456㎜
車両重量…1200㎏
エンジン方式…水平対向6 SOHC+T
総排気量…3366㏄
最高出力…469ps/5950rpm
最大トルク…57.0㎏-m/5100rpm
トランスミッション…6速MT
Porsche RUF CTR
頑なに、そして徹底的に高性能を追求して
成し遂げた市販車最速の称号
プロトタイプであるイエローバードの活躍によって、一躍脚光を浴びたRUF CTR。エンジンの構成パーツを見ればRUFオリジナルと純正品を上手に使い分け、必要であれば軽量化もする。そのようにして作れた集合体であるRUFのエンジンは、レーシングスペックとも言えるほど超ド級の高性能エンジンを作り上げたのだった。
例えば、CTRのシリンダーヘッドは、バルブ径が大きくポートの広い、NAのカレラのものを流用している。なおバルブは、強化されたCTRオリジナルのパーツを使用。クランクケースから伸びているシリンダーヘッドボルトは、耐久性を向上させたCTRオリジナルのCTRを使っていた。
ピストンもCTRオリジナルで、マーレー社で製造されたもの。強度を保たせたままピストン全長を短くし、重量を軽くすることでフリクションを少なくしている。コンロッドは930ターボの純正品を使用。CTRは重量バランスを非常に重視しており、930ターボよりもはるかに厳しい基準でコンロッドのバランス取りを行なっている。なお、930はSOHCだが、水平対向なのでカムは2本あり、それぞれの長さは短い。CTRではハイカムを装着しており、パワーバンドは高回転域に設定している。
また、ポルシェ930ターボの燃料供給システムは機械式のボッシュ社製Kジェトロニックを採用しているが、CTRでは、電子制御式の同社製モトロニックを採用。これはエアフローメーターを使わず、エンジン回転数で制御するタイプ。その他に、インタークーラーを二つに分けてエンジンルームの両脇に設置。これによって冷却効率を高めるだけでなく、効率的な吸気工程も実現させているのである。
このように、オリジナルと純正品、必要なパーツを作り出すことで、至高のエンジンを作り上げたのである。
Engine Spec
エンジン形式…水平対向6 SOHC+T
総排気量…3366cc
内径×行程…98.0mm×74.4mm
圧縮比…7.5
最高出力…469ps/5950rpm
最大トルク…57.0kg-m/5100rpm
パワーウェイトレシオ…2.45kg/ps