夢のはじまり。
クラシックメルセデスが
人生に花を咲かせる
ダイムラー・ベンツ190SL(W121)は、ベンツ初のSL(Sport Leicht=シュポルト・ライヒト=軽量スポーツカーの意味)である300SL(W198)が登場した翌年の1955年にデビュー。300SLは、当初市販計画がなかったモデルであるが、「世界一過酷な公道レース」といわれたカレラ・パナメリカーナ・メヒコにおいてベンツ300SLプロトタイプ(W194)が1952年のレースで勝利を収めた。これを機に、アメリカの販売ディーラーであったマックス・ホフマンの強い要請で販売が実現したと言われている。300SLの丸目ヘッドライトやウイング形状のオーバーフェンダーなど、個性的で美しいデザインを残しながらボディサイズとエンジンの排気量を小さくした190SLは実にエレガントな存在。基本的に300SLとは別物であり、実用車である180系をベースに基本に忠実に設計された。はじめて乗る人でも扱いやすいだけでなく、多用したメッキパーツと優雅なデザインは高級感があり多くのひとに支持された。乗り心地の良さや整備性に優れた設計は瞬く間に人気となり、$4000を切る販売価格により25881台を販売。これは300SLの約8倍という大ヒットとなった。
190SLに搭載されたエンジンは、1897㏄の直列4気筒SOHC(M121)で105ps、4MTとの組み合わせ。確かに300SLの2996㏄直列6気筒SOHC(M198)エンジンの215psと比べれば非力ではあったものの、街中を走るには十分なパワーであり、整備性にも優れていた。
そして、新車価格が$4000を切っていた190SLが70年近く経過した現在、2千万円以上の価値があることを見ても、その魅力は今もなお輝き続けている。
今回取材車した190SLは、1960年式で外装色がワインレッド・内装タン革の組み合わせがとてもオシャレな1台。オーナーである角田盛一(65歳)さんは、栃木で花農園を経営。学生時代からの憧れであったモーガンを手に入れてからは、地元のクラシックカーグループに所属し、ツーリングなどの趣味車ライフを楽しんでいた。ある時、クラシックカーショップでこれまでに見たことのないオープンカー190SLに出会う。まさにひと目惚れだったと話す角田さん、一瞬で恋に落ち、1カ月後には190SLのオーナーになっていたとのこと。
そんな角田さんのお気に入りを聞いてみると「意外に乗り心地が良いんです。それとこのデザインは魅力ですね。所有して思うことは古くても作りが良くて、メルセデスの凄さに感動してます。それとステイタス性も高いです」と嬉しそうに話してくれた。ダイナモやブレーキ関連の交換などメンテナンスをしながら、それも楽しみのひとつと捉えて維持している。クラシックカーに乗る楽しみや醍醐味を知っているからこそ、クルマとの向き合い方、作法を熟知している角田さん。スペシャルカーと過ごす時間は、やはり格別だ。
Specifications 190SL
全長 : 4220㎜
全幅 : 1740㎜
全高 : 1320㎜
ホイールベース : 2400㎜
トレッド(前) : 1430㎜
トレッド(後) : 1475㎜
車両重量 : 1160㎏
エンジン方式 : 直4SOHC
総排気量 : 1897㏄
最高出力 : 105ps/5700rpm
最大トルク : 14.5㎏-m/3200rpm
トランスミッション : 4速マニュアル