Porsche 911carrera RS2.7
当初の生産予定を大幅に超える人気だった
現在まで続く911シリーズの元祖であるナローは、マニアの間では高い人気を誇っている。73年に登場したカレラRS2.7は「ナナサンカレラ」と呼ばれており、2000万円級のプライスが付くほどの価値があるとされている。
そもそもナナサンカレラは、73年にスタートした2.5~3ℓクラスのグループ4スペシャルGTのホモロゲーションを取得するため生産されたのが生い立ち。当初は500台の予定だったが、追加オーダーにより1580台が生産された。それだけ注目度が高かったということだ。
そんなナナサンカレラが今でも多くのファンを魅了する理由とはいったい何か。希少性の高さはその一つだが、スポーツカーメーカーとしてのポルシェの原点が、このクルマから感じられることにあるのだと思う。
エンジンは当時のノーマルの911に搭載されていた2.4ℓフラット6を2.7ℓにアップして、メカニカルポンプによるインジェクションと組み合わせている。スペックとしては当時の911Sに近く、911Sの最高出力が190psであるのに対して、ナナサンカレラは210ps。こうして比較すると、スペシャルというほどのパワーを誇るというわけではない。だが、レースカーとして必須の高回転化やピストンの軽量化、バランス取りなどを徹底的に行ない、鋭さを持つエンジンに仕立てられているのだ。
そして、ナナサンカレラが凄いのが1トン弱しかない車重、つまり徹底的な軽量化がなされていることにある。レースでは外装のモディファイが制限されるため、市販車の段階からレーシーな装備が装着される。フロントウインドーはグラバーベル社製の薄いものに、前後バンパーと「ダックテール」と呼ばれる空力を計算したエンジンフードにもFRPが使用されている。ボディパネルも部分的にFRPと薄板スチールに変更。内装を見ると、必要最低限な装備を残してすべて降ろしてある。こういうのをレスオプションといって、ポルシェではクラブスポーツと称されるモデルでやる手法だ。
こうして実現した軽量化されたボディと、鋭さのあるエンジンとの組み合わせによって軽やかなフィーリングを生み出す。まるでクルマと一体になったかのような身のこなしは、まさにスポーツカーそのものなのである。ギンギンのパワーで重いボディを引っ張る感覚とは違う、ナナサンカレラだからこそのフィーリングが、多くのポルシェフリークたちを虜にするのだ。
本物は手が届かないが「仕様」なら現実的なチョイス
コンディションが良い本物のナナサンカレラを手に入れるためには相応の予算が必要なので、残念ながら庶民には手が届かない。そのためナローのボディをベースにした「カレラRS仕様」が中古車として流通しているのだ。軽量であることが一番の魅力なので、どこまで本物に近づけるかがポイントになるのだが、エンジンとボディパネルの軽量化まで手を加えたものであれば、本物に近い感触を現実的に味わうことができる。フルレストアされていれば趣味として週末にワインディングロードを楽しむことも可能。優雅なクルマ趣味を満喫できる良き相棒となってくれるだろう。