ボールジョイントブーツの
切れによるグリース漏れを
いち早く発見することが大事
Parts Data
✔このパーツの役割は?
走行安定性を保つキモとなる部分
足回りを構成するアーム類はいろいろとある。これらを最適な位置に装着し、ブッシュやボールジョイントによってあらゆる方向からの入力に対して高い安定性を保つのが主な仕事。アームには鋳鉄製のほかアルミも多用されるようになり、バネ下重量の軽減にも一役買っている。
✔劣化するとどんな症状が出る?
サスアームが劣化すると異音や振動が発生し、走行安定性や操縦性が低下する。基本的には、アームを連結させているゴムブッシュやボールジョイントの劣化が原因である。
✔長持ちの秘訣は?
オイルが付着すると寿命が短くなる
ボールジョイントは初期のブーツ切れだけなら、ブーツのみを交換することが可能。ただし、場所やアームの構造によっては交換できない場合もある。ブッシュ類はねじれないように正しい作業で組むことと、エンジンオイルなどが付着しないように対処しておくことが長持ちの秘訣。
ボールジョイントと
ブッシュの状態がキモ
クルマの足回りをのぞいてみると、様々なアームやリンク類によって構成されているのが分かる。フロントが「ストラット式」や「ダブルウイッシュボーン式」、リアが「マルチリンク式」といったように、サスペンションの形式はそのクルマの性格に適したものが採用されている。だが、基本的にアームやリンク類というのはゴムブッシュやボールジョイントによって連結され、決められた位置にセットされているだけ。
これらは走行中のクルマの動きを制御していることから、常に負担がかかっている部分ということになる。ドイツ車らしい高い走行安定性は、サスペンションのリンクやジョイントによって実現されているもの。そういった意味でも足回りのパーツが重要であることが分かると思う。
まずブッシュの場合、ここが国産車と比べると圧倒的に劣化しやすいポイントなのだが、亀裂が入って切れてしまうことが多い。完全に分離するとガダガタと動いてしまうので誰でも異常に気付くが、そこまでになってしまう前に手を打ちたいところ。リフトアップしないとすべてをチェックするのは不可能だが、手鏡などを使えばステアリングを切ったすき間から点検できる部分もある。ゴムにおかしなスジが入っていないかをチェックしておくといい。
一方のボールジョイントの場合は、より簡単にコンディションを把握できる。ボール状になった金属製のジョイント部分にグリースを封入したゴムブーツが被せられた構造になっているのだが、ボールジョイントのトラブルはこのブーツが切れることから始まる。切れ目からグリースが流れ出し、油切れになったところに雨水などが入り込むとサビが発生する。これがスムーズな動きを妨げるようになり、さらに放置するとサビによってケース側が削られて、最終的にはジョイントが抜け落ちてしまうというケースも希にある。少しでも早く発見して手を打つことが修理代を抑えるためにも大切になるのだ。
そして最も発見しやすいのが、ブーツが切れてグリースが飛んでいる状態。ジョイントの周囲やサスペンションアーム、ホイールハウスなどに油分が付着してじっとりと湿っている場合、ブーツが切れている可能性が高い。
これも足回りをちょっとのぞき込んで見れば発見できるケースが多く、日頃のDIY点検が効果を発揮するポイント。定期点検だけではかなり症状が進んだ状態になってしまうこともある。ブーツが切れただけの時であれば、ブーツだけを交換する方法も可能で、ジョイントの場所にもよるものの1万円以下で直せることも珍しくないのだ。
サスペンション回りからの
異音や振動は劣化のサイン
ブッシュやボールジョイントの劣化が進むと、症状として現れてくるようになる。ステアリングを切ったときや走行中に異音や振動を発生させるのである。
ボールジョイントは「ゴキゴキ」という異音が出始めたら劣化している可能性が高い。フロント回りではロアアーム、アッパーアーム、スタビリンクなどに備わるボールジョイントが破損してしまうケースが多い。これは非常に悪い状態で、走行安定性の低下、ステアリングを切ったときのフィーリングにも悪影響が出ているはずだ。早めに修理工場で見てもらう必要がある。また、ゴムブーツからグリースが漏れた状態では、車検をクリアできないということも覚えておきたい。
走行中やブレーキング時に「ゴトゴト」という異音がしたら、ブッシュ類の劣化が考えられる。例えば、ロアアームブッシュはメーカーを問わず負担がかかりやすいポイントで、交換頻度が高い。このほかにもスタビライザーのマウントブッシュが劣化して異音を発生させることもある。
また、サス回りのメンテナンスはフロントから手を入れるのが基本だが、車齢10年を超えてくるとリアサス回りにも注意が必要になる。多くのドイツ車のリアサスには、5本のリンクを持つマルチリンク式が採用されている。非常に高い走行安定性を実現するキモになっているが、複雑に配置されたアーム類への負担は大きい。とくにスラストアームが劣化しやすく交換頻度が高い。もちろん、ロアアームなどその他のアーム類の劣化も進んでいるから、リアサス回りの状態を定期的に点検しておくことが、本来の走行安定性を取り戻すポイントになる。
サスペンションからの異音は、クルマが走り出してからの振動やステアリングを切るなどの動きに連動して発生するパターンが多い。クルマの速度に連動して一定のタイミングで連続した音がする場合は、駆動系からの音であることも考えられるので、異音がしたからといって足回りと決めつけてはいけない。異音や振動はクルマが発するSOSでもあるので、それを見逃さないようにすることが大事だ。
エンジン関係のトラブルに比べると、足回りは車検のサイクルを待つことができないほど緊急性の高いトラブルが起きるケースは少ない。経年劣化によるものがほとんどなので、定期点検をキッチリ受けておけば、各アームに備わるブッシュやボールジョイントの劣化は十分に把握できる。それよりもブーツ切れによるグリースの流出をいち早く発見することの方が、ユーザーでも可能なチェックとしては、はるかに大きな意味があることを知っておこう。
SST (Special Service Tool) を使った
正しい修理方法
SSTを使わないと
仕上がり寸法に違いが出てしまう
サス回りのメンテナンスで代表的なのがロアアームブッシュの交換。例えばメルセデスW124の場合、古いブッシュを抜き取り、プレスを使って圧入するというシンプルなものだが、正しく取り付けるためにはブッシュを決められた向きに入れ、中央に取り付けられているアルミ製のスリーブの傘を開いて固定してやる必要がある。この作業をメーカー指定のSSTでやらないと仕上がりの寸法に違いが出てしまうのだ。だが、SSTを使わず正しい寸法になっていないとハンマーで叩き込むことになりアームの変形を招くというから、このSSTがいかに大切かが分かるだろう。また、ブッシュがねじれた状態だと寿命も極端に短くなる。