エンジンはどのように進化してきたのか?
世代別に同じV8エンジンで比較してみましょう。初代Eクラスに搭載されたM119エンジンと2代目EクラスのM113エンジンでは、M113が非常にコンパクトに作られているのが分かります。エンジンファンが廃止され電動ファンのみになったのでラジエター回りがすっきりしていますし、スペースも広い。全体的にシンプルな作りになっていて、ネジやボルトが緩めやすい位置に付いている。例えばウォーターポンプを交換するのもラクですよ。メカニックの立場から見ても、工具のセレクトに悩まなくて済むので、メルセデスは整備性ということをよく考えて作られていると実感します。
M119はエンジンとしてはとても魅力的ですが、M113に比べるとスペースが少ない。長いプラグコードはトラブルの原因になることも多いですから、M113ではそれがよく考えられていて短くシンプルに装着されているのが分かります。
世代が異なるのでエンジン制御に差があるのは仕方ありませんが、往年のM119エンジンはコストをかけて作っているという印象です。シリンダー一つを見てもM113エンジンはバリがそのまま残っていることが多いんですが、M119のシリンダーを触ってみるとよく出来ている。触ってみるとよく分かるんですよ。もちろんそれによって耐久性がうんぬんってわけではないけれど、作りとしてはやっぱり違いますね。
M113エンジンはピストン形状やシリンダーなどきちんと計算して作られていると思います。この時代のエンジンで、ピストンが焼けてしまうというトラブルはほとんどないですからね。メーカー指定のオイル交換のサイクルが長くなっていますが、それでもシリンダーやカムがダメになるようなことがないんですよ。エンジンオイルの進化という見方もできますよね。
トラブルの状況について一番感動的なのは、水回りのトラブルが激減したことでしょう。もちろん経年劣化によるウォーターポンプ、サーモスタット、ラジエターなどの交換が必要なのはどちらも同じですが、M113では水漏れが少なくなったし水温で悩まされることもなくなった。M119エンジンでは気温が高いこの時期になると、常に水温計とにらめっこしながら走ることになるし、水回りパーツのメンテナンスにも他のクルマ以上に気を配らなければならない。でも、M113エンジンではそういったストレスが全くなくなりましたよ。電動ファンにしてもコンピュータ診断機で実測値まで調べられる。M119のファンカップリングでは、ローでは繋がっているけど2000回転超えたら滑っちゃって水温が上昇してしまうというトラブルが起きると、感覚的な診断が必要になります。そのへんも大きく違いますよね。
水のトラブルが激減した理由として考えられるのはパーツの信頼性が上がったというだけでなく、メカニックのミスを防ぐ作りになっていることも大きいと思います。水回りのホースにしても昔のクルマはネジ留めになっているところが多くて、締め過ぎると折れちゃうし、緩ければ漏れてしまう。ところがM113世代のクルマになるとクリップタイプになっているからそこにはめ込むだけでいい。ホース自体にOリングが付いているジョイント式も多いから、誰がやってもミスはないように作られているんです。でも圧がかかるところはネジ留めになっているなど、きちんと考えられて作られているからメカニックのミスが減り、結果的に水回りのトラブルが減ったのだと思います。
オイル漏れは世代を問わず発生するので、頻度にしても大きくは変わりません。ただ、M113エンジンは液体パッキンを使用している箇所が増えていますね。これもさっき話した水回りと同じで、ゴムパッキンだとボルトを締め過ぎてパッキンがズレてしまったり、逆に緩すぎて漏れてしまうことがあった。けれども、液体パッキンを使い、ネジの締め込み限度も決まっているので失敗がない。このへんはM119とは違う部分かもしれません。熟練のメカニックであればこういった失敗はないんですが、メーカーとしても人間のミスを極力少なくさせるための工夫がなされているんだと思います。
部品の耐久性については基本的には変わらない部分と、上がった部分があると思います。消耗による劣化はどの世代も同じですが、M113エンジンでは突発的にダメになるというケースは少なくないです。
エンジン制御だけでなく整備性も進化している
ここまで現場のメカニックの証言をまとめて紹介してきたが、部品の信頼性を高めて、メカニックのミスを減少させることで進化したメルセデスのエンジン回り。エンジン制御だけでなく、整備性においても確実に進化しているのだ。角目世代のエンジンは素材や作りにこだわりがあるが、きっちりと直すにはやはり熟練のメカニックによる経験とノウハウが必要であることを改めて実感させられた。