エンジンの載せ換えは23年間で11回
驚異の再生力で達成した
前人未到の大記録
タクシーとして23年間も
走り続けた240D
往年のメルセデス・ベンツは、設計の段階からメンテナンスをしながら長く使うという思想が貫かれている。クルマの骨格であるボディを頑丈に作り、メンテナンスしやすいように整備性も考慮。分解修理ができる箇所が多かったのも往年のメルセデスに共通することだ。
そんなメルセデスが誇る耐久性の高さを証明するのが、ここで紹介する76年式のメルセデス・ベンツ240Dである。ギリシャのタクシードライバーであるグレゴリオス・サキニディスさんは、走行22万㎞だったこのクルマをドイツで購入し、ギリシャでタクシーとして使っていた。たくさんのお客を乗せながら走り続けた23年間。気づけば走行距離はなんと460万㎞にも達したのである。地球115周分という想像もつかない距離を、この240Dは走破してしまったのだ。
タクシーとして使っている以上、営業中にトラブルがあってはならない。それゆえメンテナンスはきっちりと行なわれており、例えばエンジンの載せ換えは23年間で11回、最初から積まれていたエンジンとスペアエンジン2基をオーバーホールしながら使い続けていたという。1回あたりの走行距離は約41万㎞。日本においては、それだけでも驚きの数字であることは間違いない。
460万㎞を走り続けてこられた大きな理由として、2つの要素が考えられる。一つはボディが非常に頑丈だったということ。タクシーとして日々走っていても耐え抜いてしまう強靭さは、当時のメルセデスの凄さを思い知らされる。もちろん多少のヤレはあるだろうが、それでも実用として使えてしまうのが当時のメルセデス・ベンツなのである。
2つめの理由が、パーツの供給体制が整っていたということ。メルセデス・ベンツは世界一とも言えるパーツ供給体制を整え、これは現在も継続されている。ゴムパーツ一つからでも部品が出ることは、長く乗り続けるためには欠かせない要素。今でもタテ目のメルセデスが元気に走っていることがその証と言える。
240Dのオーナーであるグレゴリオス・サキニディスさんも長年に渡るアフターフォローについて感銘を受けており、ダイムラー・クライスラー社(現ダイムラーAG)に感謝の手紙を送った。それを読んだ関係者は460万㎞という歴代最長の走行距離に驚き、なんとメルセデス・ベンツミュージアムに寄贈しないかと提案したのだ。グレゴリオス・サキニディスさんはこの提案を受け入れ、代わりに新たな相棒となる当時の最新モデルを受け取り、ギリシャへ帰っていったという。そう、240Dをドイツで購入してギリシャに帰った23年前と同じように。
実用性と安全性を重視し、長く愛用されることこそが高級車としてのあるべき姿というのが、今も昔もメルセデス・ベンツの哲学として貫かれている。ミュージアムに展示された240Dは、その象徴とも言える存在なのである。 ( GERMAN CARS 2014年9月号より抜粋 )