レースで勝つために生まれた
市販車とは思えない刺激的なモデル
1989y BMW M3 (E30)
M3が誕生した背景には、ツーリングカーレースを制覇するという目的があった。当時のグループAでは市販車をベースに、大幅な改造はできないなどのレギュレーションをクリアしなければならないため、ベース車両の素性の良さが求められた。それだけにM3はエクステリアからエンジンに至るまで、市販車とは思えないほど刺激的なクルマに仕上がっている。
まず目を引くのが、前後のフェンダーに大きな膨らみを持たせたブリスターフェンダー。トレッドを拡大するための手段として採用されたデザインだが、そのレーシーなスタイルは圧倒的な存在感を放つ。大きなテールフィンが付いたリア回りは、空気抵抗を低減させるためにCピラーとリアウインドーの傾斜角度を作り直していることからも、レースで勝つという強い思いが伝わってくる。エクステリアだけを見ても只者ではないクルマの雰囲気がビシビシと感じられるのだが、M3の本当の凄さはやはりエンジンにある。
S14ユニットと呼ばれる2.3ℓの直4DOHCは、名車M1に搭載されたM88ユニットと同じボア×ストロークを持つパワーユニット。M88ユニットはレーシングエンジンとして高い耐久性を持ち、何とポルシェ935に勝つために開発されたものだ。大量の空気を吸い込むために4バルブヘッドが与えられ、ストレート形状のインマニや排気効率に優れたエキマニ、各部のバランス取りによるスムーズな回転などにより官能的なフィールを生み出している。
そのM88ユニットの魅力が詰まった4気筒版が、M3に搭載されているS14ユニットなのである。
もちろん4気筒ならではの魅力も見逃せない。6気筒よりも軽いということは走行性能におけるメリットが大きく、BMWらしい軽快なハンドリングをより強く感じられる。もっと言えば、F2マシンに搭載されていたエンジンと基本的には同じで、さらにターボを装着してF1マシンに搭載されたエンジンと同じブロックを使っているのだ。
そんなエンジンが市販車に搭載され、ナンバー付きで公道を走れることが凄いと思わないか。全身から伝わってくるレーシングエンジンの鼓動を感じながら、クルマを操る楽しみはこの時代のM3だからこそより濃く残されている。
スペックだけを見れば驚くほどの数値ではないのだが、「速さ=ドライビングが楽しい」というわけではない。久しぶりにM3と向き合ってみて、ボディサイズ、若干ラフなエンジンなど機械を動かしているという感触が全身に伝わってくる。フリークにとってはこの鼓動こそが心地良いと感じるはずだ。
今回撮影のためにオーナーから借りたM3は、スポーツエボリューション用2.5ℓユニットに換装し、足回りも強化。ボンネットもカーボンにすることで軽量化が図られている。ドライバーズシートを覗き込めば、ゲトラグ製のクロスミッション、後付けのメーターが並んでいることからもサーキットでその走りを楽しんでいるに違いない。
このクルマは、E30型M3を専門とするプロショップ「パクトールインターナショナル」で仕上げられた。初代M3は軽量でコンパクトなボディとアナログの部分を多く残すため、チューニング次第でいかようにも走りの特性を変化させることができる。もちろん、そのためには正しい知識と技術で手を入れていく必要があるが、パクトール代表の橋本氏自身が大のE30M3フリークであり、長くこのクルマにかかわってきた。その経験こそが、好みのクルマに仕上げる近道になるのだと思う。
今では中古車の数が少なくなってきているが、全く探せないというわけではない。実際に乗るにはセミレストアと定期的なメンテナンスが必須だが、それに応えてくれるだけの走る楽しさが詰まっている。この感触は、現代のクルマがどんなに進化しても味わえない特別なものだ。
クルマが持つ本来の楽しさが
凝縮されている
日本で唯一のE30M3専門店
パクトールインターナショナル
代表取締役 橋本磨次春氏
Profile of BMW M3(E30)
Specifications 89年式M3
全長 : 345㎜
全幅 : 1680㎜
全高 : 1365㎜
ホイールベース : 2560㎜
トレッド(前) : 1410㎜
トレッド(後) : 1435㎜
車両重量 : 1280㎏
エンジン方式 : 直4DOHC
総排気量 : 2302㏄
最高出力 : 195ps/6750rpm
最大トルク : 23.5㎏-m/4750rpm
トランスミッション : 5速MT